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自立支援介護と施設経営の健全化

  • 業種 介護福祉施設
  • 種別 レポート

令和3年に自立支援・重度化防止の推進について介護報酬が改定され、施設介護や在宅介護においても自立支援介護が重視されるようになりました。

しかし、現実に自立支援介護の導入に踏み切れるかというと、そこには大きな障壁があるように思います。よく言われるのが、「自立支援介護によって要介護度が下がり、そのため得られる報酬が減るのではないか」ということです。あるいは、「職員の仕事が大変になる、職員数を増やさなければならない」といった心配の声も聞きます。

しかし、実際に自立支援介護を導入している施設では、そのような悪影響は見られていません。

今回は、介護福祉施設で自立支援介護を行うにあたってどのような障壁があるか、課題を整理します。

介護度が下がることで、経営が悪化するのではないか

まず、介護度が下がることで、施設経営がうまくいかないのではないか。そのようなことに不安になられる方もおられると思います。ですが、ご利用者の介護度が下がることが直接的に施設経営に悪影響を及ぼすものではありません。

ご存じのとおり、令和3年に自立支援・重度化防止の推進について介護報酬が改定されました。具体的にはアウトカム評価(排泄支援加算など)がスタートしました。

排泄介助が全介助であった方が施設入所後のケアによって、一部介助、見守り、自立に改善された場合や、おむつを着けて入所された方のおむつが外れた場合に、インセンティブを得られる制度です。

収益として評価されるだけでなく、おむつを使用しなければおむつ代やごみ処理代も大幅に削減できるので、コスト削減にも繋がります。

自立支援介護では、職員の仕事が大変になるのではないか

次に、職員の業務がいまよりも大変になるのではないか。という不安です。

仕事のやり方を変えるわけですから、確かに最初は大変かもしれません。しかし、今までのようにバラバラのケアではなく、全員で同じ目標に向かうために、やがて、介護だけではなく様々な職種間で統一したケアができ、チームとしてのまとまりが出てきます。

何よりもご利用者の改善がみられると、職員さんはそれに仕事のやりがいを感じるようになりモチベーションが上がり、離職率も改善します。

また、このような取り組みが世間に周知されると職員採用もスムーズとなり、安定した人員確保ができることから、さらに働きやすい職場を作ることが出来ます。

自立支援介護のために職員を増やさなければならないのではないか

また、職員を増やさなければならないのではないかというご心配もあるかもしれません。

しかし現実には、ご利用者全員に対して一度に自立支援介護を実施することは困難です。そのため期間を決めて、一人ひとりに対して集中的にケアを実施することになります。特別に人員を増やして行う必要はないのです。

やがて、食事、排泄などの日常の動作が改善されたり、認知症の周辺症状が落ち着くことで、職員さんの業務負担は軽減されます。介護の現場では、お世話介護によってご利用者が重度化しているといったことが話題になることがあります。お世話介護によりご利用者が重度化することの方が、職員数を増やさなければならない原因になり兼ねないのではないでしょうか。

自立支援介護の4つのケア

ここまで述べてきたように、自立支援介護には大きな誤解があるのだと思いますが、ここで改めて、自立支援介護の基本をおさらいしておきたいと思います。

高齢者に対する自立支援介護とは

自立には「身体的自立」「精神的自立」「社会的自立」の3つの概念があります。以前、そのすべてにおいて自立していた高齢者が、自立性が低下してしまうきっかけは身体的自立が低下してしまうからだと考えられます。

そのため、「精神的自立」「社会的自立」を目指すときには、まずは「身体的自立」からスタートする必要があります。

ただし、身体的自立がゴールではなく、要介護高齢者の方々が、お体が元気になったことで「トイレでの排泄が再び出来ることで尊厳を守った生活」「自己実現ができる生活」「希望を叶えられる生活」が送れ、その人らしい本来の生活が送れることが目的になります。

基本の4つのケア

人間が健康を維持し、活動的な生活を送るために、「水分」「食事」「排便」「運動」は重要です。要介護高齢者においてもこの4つのことが自立した生活を送るための基本となり、自立支援介護においては「4つの基本ケア」と呼ばれています。

基本の4つのケア

1 1,500mlの水分摂取

2 1,500Kcalの栄養摂取

3 生理的、規則的な排便

4 歩行を中心とした運動量の確保

水分ケア

人間の体は60兆個の細胞から出来ており、その一つひとつの細胞が活性するために水分は欠かせません。適切な水分が体内にあることで、脳の細胞も活性化され、意識レベルが向上しコミュニケーション能力、認知力が改善されます。また身体の活動性も向上することから歩行や日常の生活動作も改善されます。自立支援介護においては「水分で始まり、水分で終わる」と言われるほど重要なケアになります。

歩行ケア

高齢者が歩けなくなることを一般的には「筋力が低下したからだ」と言われています。ですが歩行とは全身の筋肉を使った、とても難しい協調運動になりますので、車イス生活などによって、このような難しい運動を長期間実施しなくなった要介護高齢者は「歩き方を忘れた」と考えられます。その為、筋力をつけるということよりも「歩き方を思い出してもらう」ことが重要です。

食事ケア

常食を3食摂取することで1日2,500回も咀嚼すると言われています。これがお粥、ペースト食など食事形態が低下すると、咀嚼回数が減少、または行わなくなり口腔機能は更に低下します。また、常食は栄養価が最も高く、高齢者に多い低栄養を改善し活動的な生活を送るためにも重要です。自立支援介護では常食化ケアによって、美味しく、栄養価の高い常食を再び食べれるように支援しています。

排泄ケア

自立の中でも排泄自立は最優先事項です。排泄の失敗こそが自信を喪失し、自立に対する意欲を失くしていると考えているからです。高齢者にとっては「人間性」への侵害、健康状態の悪化、生きる意欲の喪失などへつながり、いつどこでも排泄してよくなることにより、尿・便意の喪失の原因となります。

また介護職員にとっても、排泄のおむつ交換などは、誰にでも出来る仕事になり、専門性を低下させたり、向上心や働く意欲を妨げる原因になります。そういったことからも、「誰かにお願いしておむつを替えてもらう生活」から脱却する必要があります。

自立支援介護を導入するメリット

自立支援介護は魔法の杖ではもちろんありません。ですので、ただやみくもに導入するのではなく、正しく導入する必要があります。しかし正しく導入すれば、大きなメリットが得られるはずです。実際に導入された施設で見られたプラスの効果を、列記します。

収益性が高まる

  • 入院者が減り、稼働率が高まり、おむつ代も減りコストダウン
  • 口コミ増加による新規利用者紹介数の増加
  • 在宅復帰率の向上、自立支援関連加算の取得
  • 自立支援介護の実施により他事業所との差別化が図れる

人材が定着する

  • ケアが統一され、職種間での連携強化
  • 利用者の変化・効果によるやりがい向上にて離職率低下
  • 採用応募増加による人材紹介料の低下

実践リーダーが養成できる

  • ケアマイスター制度導入により法人内で育成・指導できるリーダーを3カ年かけて養成する

自立支援介護のまとめ

今回は、自立支援介護を行うにあたってどのような障壁があるか、よく聞かれるご不安の声に対して、実際に導入されている施設での現実をご紹介しました。

まとめとして、ご利用者の自立を目指した介護は、

  • ご利用者にとって、排泄の失敗なし、自分でできる生活に変わることで、自信、生きる意欲の回復にも繋がります。
  • ご家族にとって、「来る度に元気!」「話ができるように!」面会の頻度増え、家族関係の再構築、また施設様、事業所様との信頼関係が強化されます。
  • 働く職員にとって、自分達の考えたケアにより再び自立できた 仕事のやりがい、モチベーションアップ​、専門職としての誇りと自信が生まれます。
  • 施設経営において、入院者減少⇒稼働率向上、おむつ代等コストダウン、利用申込み増加、人材の確保・定着 介護度が下がってもむしろ経営状態は改善されます。

自立支援介護は、どのようなケアを実現するか、どのような職員の働き甲斐を実現するか、どのような施設の役割を目指すのかを問うものです。志のある施設さまが一歩踏み出すことが、関わる全ての方々が幸せになる大きなきっかけになると確信しています。

このレポートの解説者

齊藤 貴也(さいとう たかや)
株式会社 日本経営 介護福祉コンサルティング部推進役

社会福祉法人正吉福祉会 理事
「人間の尊厳と自己実現」を理念に掲げ、自立支援に重きを置く。この取り組みが多くの介護関係者からの注目を集め、頻繁に事業者や介護職が施設見学に訪れる。渋谷区在住の65歳以上の介護認定を受けていない高齢者を対象に高齢者健康トレーニング教室(無料)を開催したり、月に1回の「ひだまりカフェ」の開催を通じて地域社会にも大きく貢献している。多くのメディアでも取り上げられ、政府も掲げる自立支援を積極的に推進し、第一人者として積極的に発信を続ける。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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